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憂愁のパリジャン

忘れていました、「通好みのイケメン」。
しんちゃんをビジュアル的に表現するのは難しいのですが、「振り向いたモンゴル人」なんていうのはどうでしょうか。
「憂愁のトルコ系パリジャン」とか。
でも、やはりしんちゃんは「含羞の猛者」「心優しい勇士」、そして「永遠の求道者」。
かっこよすぎるか?

ところで、ずいぶん前だけど、しんちゃんと一緒に飲みに来て、いつの間にか消えてしまった人がいたよね。覚えていますか?
「変なやつだから、トイレの窓からでも出て行ったんですよ」
そして、しんちゃんはトイレの窓を確かめに行きました。
「これくらいの窓ならあいつは出て行きますよ」
しんちゃんは、そう言いましたが、僕は今でも彼は煙のように消滅したのだと思っています。
だって、あれ以来彼を見ていないのですから。

ということで、今回は酒飲み百態、酔っ払い百態。

その①
中年の女性二人組。一人は地元に住んでいる僕の知人で、お連れさんはひさしぶりに帰郷した彼女の友人。
陽気な酒で飲むほどに二人のテンションが上がっていきます。
突然、お連れさんがカウンターの椅子から、ズルズルッと崩れ落ちました。驚いて声をかけても応答はなく、床の上にのびてしまった状態です。知人はさほど驚いた様子もなく、「しばらく寝かせておけば」。
「いいのかな」と僕。
やがて、閉店時刻。お連れさんはマグロ状態で床に横たわったままです。
「家族でも呼ぼうか?」「だれもいないの」
タクシーを呼びましたが、さすがに断られました。
しかたなく、バイトの青年と僕とで、店から500メートルほどだという住居まで運ぶことにしました。僕も飲んでいるので車は運転できません。背負おうにも正体をなくした中年女性。どちらかというと肥満タイプ。どうにもなりません。一人が上半身を抱え、一人が脚を持って運ぶことにしました。
丸太ならまだいい。しかし、正体のない人間は丸太よりしまつが悪い。彼女の重い腰が沈んで、地面を引きずり状態です。しかも、徐々に衣服がめくれて下着まで露出してきます。見かねて知人の女性が直します。
深夜の路上を、引きずっては道端に横たえて衣服を直し、僕と青年は荒い息をついて汗をぬぐう。
何度もそれを繰り返した頃、パトカーが通りかかりました。
急停車したパトカーから、ふたりの警官がバタバタと駆け寄ってきました。
「なにをしているんだ!」警官は血相を変えて詰問します。
それはそうでしょう。深夜の路上に衣服を乱した女性が横たわり3人が取り囲んでいるのです。
まあしかし、事情を話せば警官も納得。しかし、そういうときにパトカーは運んではくれないのですね。
翌日、店に行くとドアの取っ手に菓子折りがぶら下がっていました。
「お世話になりました。重かったでしょう」のメッセージを添えて。

その②
何度か来店していた、こちらは50代のちょっとわけありっぽいカップル。ふたりとも寡黙で、とくに男性の方は、ほとんどしゃべりません。
その男性が、何を思ったか靴を脱ぐとカウンターの上にあがりました。カウンターの上には電灯がぶら下がっていますが、男性は器用にそれを避けながら踊り始めたのです。ちょうど阿波踊りのように中腰になって両手を右に左にかざします。しかし、それでも男性は無言なのです。彼の耳にだけ阿波踊りの熱狂が聞こえているようなのです。僕も周りの客もあっけにとられるばかりです。
しかし、さらに驚いたのは連れの女性の態度でした。普通であれば彼を阻止するでしょうに、顔色ひとつ変えないで、踊る彼を見るでもなく平然としているのです。
僕の短くない飲み屋稼業の歴史の中で、カウンターに上がって踊ったのは彼一人です。
おそらく、その男性は酒を飲むとそうした癖を披露することがよくあったのでしょう。連れの女性はそれを知っているから平然としていたのでしょう。
でも、酒場のカウンターの上ですよ。陽気な酒飲みなら手拍子のひとつも出たかも知れませんが、陰気な人でしたから、ちょっと気味悪かったのも正直な気持ちでした。

酔態百話、まだまだ続きます。客の酔態だけでは不公平なので、いづれは僕自身の恥ずかしい話も。

by yoyotei | 2009-11-19 22:56  

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