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生き先案内人

 高校教師と僧侶の二足のわらじだった人が高校を退職して、社会福祉法人が運営する「新潟いのちの電話」のボランティアをはじめました。
「新潟いのちの電話」は、不安や孤独に悩んでいる人に365日、24時間体制で電話相談に応じるというもので、特に自殺防止を目的にしているようです。170人の相談員が年間約23,000件もの相談を受け付けているそうです。
 昨年、全国の自殺者は交通事故死の4倍以上の32,155人、自殺未遂はその20倍もあるといわれています。しかもOECD加盟国中、日本はロシアについで2番目に自殺死亡率が高く、アメリカの2倍、イギリスの3倍です。
 その僧侶は1年間の研修を始めたばかりですが、「今、薬を飲んだ」「首をつる縄を用意した」「ビルの屋上にいる」など、瀬戸際の相談もあるらしいと深刻な表情を見せていました。
 
 新年になると、ある曹洞宗のお寺から通信が届きます。その僧侶はたまたま僕の故郷の隣県の出身ということで、ひところ時々店に来ていました。活動的な僧侶で、お寺を会場に「まなび塾」を主宰して講演会などを開催しています。毎年の通信にはそうした活動の報告などが掲載されています。一男一女の二人のお子さんも僧侶になるべく修行をしているという、仏道一筋の一家でもあります。
 先日、その「まなび塾」から特別講演会の案内がありました。講師が「新潟いのちの電話」
の理事長とあります。演題は「良寛に学ぶ」です。
 良寛の父は60歳で自殺していると、かつて理事長が自殺を考えるフォーラムで述べていました。良寛の辞世の句は「散る桜 残る桜も 散る桜」といわれています。太平洋戦争では神風特攻隊が、その句に自分たちの心情をなぞらえましたが、「いずれ死ぬものを何故に死に急ぐか」と解釈することもできます。
 しかし、自殺を考える人に対して、叱りつけたり、アドバイスをしたり、激励したり、むやみに批判するのは厳禁だそうです。まして、良寛の句を引いて「どうせいつかは死ぬんだから・・・」などはもってのほかでしょう。相談者の話を「聴いて,聴いて、聴いて」が鉄則だと二足のわらじを一足にした僧侶が言っていました。
 葬式仏教などと揶揄されて、死んでからのあの世への導きだけを儀式的におこなうかのように感じる現代仏教ですが、そうした「死に先案内人」ではなく、自殺を思いとどまらせる「生き先案内人」として、絶望の淵にいる人たちに寄り添う僧侶もいるのですね。

 自殺防止に取り組んでいる講師の話を聴いてみたいと思います。

by yoyotei | 2010-04-21 19:52  

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