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ふたつの講演から

 好天に恵まれた日曜日、知人二人を誘って市内の曹洞宗の寺へ行ってきました。以前このブログで書いた「まなび塾」主催の特別講演会が開催されたからです。講師は「新潟いのちの電話」理事長・眞壁伍郎氏(新潟大学名誉教授)、演題は「ことばはをしみをしみ-良寛に学ぶ-」です。
会場の本堂はいっぱいの聴衆で埋まりました。住職の話では葬式でも檀家の集まりでもこれほど多くはないということでした。
 講演は、自身の母が良寛に深く私淑していたこと。良寛は38歳のときに父を入水自殺で、また41歳の時には弟までも自殺で失った、いわゆる自死遺族だったこと。諸国遍歴の後、故郷越後の出雲崎に帰った良寛は、子どもたちと交流し、それを多くの歌にしましたが、その背景にあったのは、農村の貧窮のなかで、幼くして奉公に出され、遊女として売られていく子どもたちの姿だったということでした。副題の「をしみをしみ」は良寛の「戒語」にあるもので、「惜しみ」ではなく「愛しみ」であることなど、新潟に40年も住みながらよく知らなかった良寛について教えられることの多い講演でした。

 前日には新潟市で、神戸大学の二宮厚美教授の「憲法9条・25条かがやく国づくりをどうすすめるか」という話を聴きました。25条は人間らしく生きる権利を保障するものです。将来の生活に対する意識を調査したところ、「非常に安心」「やや安心」とこたえた日本人は14%で、先進23カ国中最下位だったそうです。86%の人が将来に不安を抱いているという現実はどこからくるのでしょう。雇用の不安定や長期不況も大きな要因でしょうが、自己責任論の蔓延も無関係ではないでしょう。憲法によって私たちは守られているという、国民意識こそがあたりまえの国でなければならない。そうした思いを強く持ちました。
 この国では生存権が憲法で保障されているにもかかわらず、自殺者が12年連続で年間3万人を超える現実。しかも、失業や生活苦による中高年の自殺が増えているのです。世界第2位の経済国でありながらです。

 眞壁伍郎さんは新潟県の自殺率があまりに高いことから、1984年に「新潟いのちの電話」を開局しました。ずいぶん前に『県民性』(岩波新書)で自殺率が最も高い県として、新潟県と島根県があげられていました。長く両県が1位2位を争っていたそうです。島根県に生まれ、新潟県に住む僕としては、複雑な思いにとらわれたことでした。
 5月13日の警察庁の発表では、新潟県の自殺率は10万人あたり32.6人で全国8位です。
今手元にないのであいまいな記憶をたどると『県民性』では、自殺率の高い新潟県と島根県に共通する県民性は、「勤勉」「まじめ」「閉鎖性」などでした。経済的な後進性もあったかもしれません。

 ふたつの貴重な講演を聴いて、感じたことがあります。
 社会の仕組みを人間が生きやすいように変えなければならない。
 自分の「生」を肯定する意識を育てなければならない。

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by yoyotei | 2010-05-17 20:26  

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