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「プレミアムパーティー」を終えて

「ようこそのご来店ありがとうございます(拍手)。昨年の夏、帰郷した娘たちが突然、パーティーをしようよと言い出しました。長く続く不況で店の客足も下降気味。元気をなくしていた父を励ましてやろうとの、ありがたい娘心でありました。当日のご案内にもかかわらず30名ものご来店をいただき、またあれこれとお祝いの品々まで頂戴しました。これに味を占めまして(笑い声)、今年は早々とパーティー開催を決め、昨年は一日だけだったものをなんと今回は3日間の開催とおおいに欲張ったわけであります(爆笑)。そうした魂胆を知っておられたのかどうか、こんなに大勢様にご来店いただき、まことにありがとうございます(爆笑)。
 感謝の気持ちを表すために、私は娘たちにいくつかの提案をいたしました。大抽選会をおこない、特賞の方には「豪華ハワイ旅行」をプレゼントしてはどうか、というものでした(大歓声と大拍手)。・・・娘の1人に張り倒されました(爆笑))。そんな余裕がどこにあるんだ!というわけであります。それでは今夜いらしてくださった方全員に、ウイスキーを1本づつおみやげにお持ち帰りいただこうと提案いたしました(歓声と中ぐらいの拍手)。・・・もう1人の娘におもいきり股間を蹴り上げられました(爆笑)。なにええ格好してるんだ!とのことだそうです。それではということで、料金を少し下げたらと恐る恐る申し出てみました(笑い声)。案の定、いちばん目方の重い娘からボディ・プレスを喰らい(爆笑)その上、少しでも儲けて孫に小遣いでもやろうとは思わんのかいと、大きな尻で背中をぐりぐりやられました。(大笑い)
 そんなように、私の提案は娘たちにはことごとく不採用になったわけですが、みなさんには死ぬほど飲んでもらおうと、それこそ命がけで申し出たところ、これだけはすんなりと同意をいただきました。そういうわけで、どうかみなさん、今夜は時間の許すかぎりゆっくり飲んで語っていただきたいと願うところでございます。お隣に見知らぬ顔がありましたら、さりげなく足元をごらんになってください。お盆であります。もし足元がボーッとかすんでおりましたら、あちらの方面からの一時帰省の方です。いろいろとお話をお聞きになるのもよいかと思います。私たちもかならず行くところであります。(大笑い)・・・」

「プレミアムパーティー」は、こんな私のあいさつを織り込みながら、3日間を盛況のうちに終えることができた。さほどのもてなしができたわけではないが、「毎月やった方がいいよ」といった積極的なコメントもいただいて本当に嬉しい3日間だった。最終日には子連れのファミリーや、同窓会の流れまで乱入(?)して予想外の賑わいとなった。その日は孫娘2人もかいがいしく手伝ってくれた。中学1年生の孫娘が「じい、よかったね」と言ってくれたのも、通称「カールママ」(このブログ<犬のボトル>参照)も「マスターよかったね」と我がことのように喜んでくださったことも嬉しさの極みだった。
 娘たちはともかく、長女の夫までも貴重な夏休みをこのパーティーのために費やしてくれた。ありがたいことであった。
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 パーティーを終えてひとり静かな感慨にふけった。私は居酒屋の亭主だが、必ずしも接客業に向いているとは思っていない。客とは真剣に議論するし、ときには激論になることもある。この商売のタブーといわれる宗教や政治の話も避けることはしない。客には人として人間として対応することを心がけてきたつもりだ。
 日にちを間違えて、パーティー前日に来て、我が家に泊まっていったある人が、10数年前に私が言ったことを思い出させてくれた。それは、アンブローズ・ビアスの「悪魔の辞典」の1項目、バーテンダーの定義だ。いま原典にあたる余裕がないが、それには「バーテンダーとは、死にたいと思った人が最後に相談する相手」といった記述があった。バーテンダーは飲み屋の親父でも同じことだ。もとより私はカウンセラーでも精神科医でもないし、人生の達人でもない。だが、話相手になろうという思いはある。飲んで心をほぐして語り合う。それだけでも人は救われることがあるし、何かが見えてくることもある。

 石川啄木の『一握の砂』に「こころざし得ぬ人人のあつまりて酒飲む場所が我が家なりしかな」という短歌がある。もちろん「こころざしを得た人人」とは、共に喜び合おう。ただ「こころざし得ぬ人」が、より多いのがこの世の現実だ。あらためて「夭夭亭」を、喜びや失意や挫折、迷妄を語る場所として存続しなければと決意している。
 人生の旅はまだまだ続くかもしれないし、突如として明日終わるかもしれない。いずれにしろ旅は道半ばだ。これまで多くの客が私の旅の道標だった。私が客の旅の道標になることはあるだろうか。少しでもそのようになれたら本望だ。

 ある日本人のオートバイライダーが、オーストラリア大陸を横断していた。向こうから白髪をなびかせた老ライダーが走ってきた。2人はバイクを停めてしばし語り合う。別れ際に日本人ライダーがいう。「まるで少年のようですね」。老ライダーが笑いながらこたえた。
「ああ、少年になるまでに80年かかったよ」
 私の大好きな話だ。いい年をとりたいものだ。
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by yoyotei | 2010-08-19 09:18  

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