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大峰山

「山小屋ライフを味わいたい」
そんな私の希望を仲間たちがかなえてくれた。条件をつけた。ハードな登山はしないということである。仲間が選んでくれたのは新発田市の北に位置する大峰山。日本で一番小さい山脈とされる櫛形山脈の一つで,標高は399メートル。山桜の名所で5月にはそれを目当てに賑わう所だという。
 8月29日の午後、猛暑の中を男性3人女性2人で出発。私を除いては登山の愛好者たちである。「山小屋ライフ」といっても、つまりは山小屋に泊まって酒を飲むことだ。ビール、日本酒、ウイスキー、焼酎と酒類は豊富に用意した。食材も肉類をメインに、大宴会のいでたちである。私はギターも携行した。リュックはインド行きのものを使ったが、1ヶ月のインド旅行よりも重くなった。
 車を降りて歩き始めるといきなり登りである。下山してきた人に聞くと、30分で山小屋だという。ハイキングコースと案内板にあった。そんな軽登山コースなのだ。だが、歩き始めてすぐに汗が噴き出した。息が切れる。
 昨夜は店が予想外の忙しさで、午前4時まで客と飲んでいた。この日の昼には釣りの仲間との恒例行事「鮎を食べる会」にも顔を出してきた。さすがに酒は飲まなかったが、睡眠時間は充分とはいえない。あわただしく酒や肉を買い、氷や保冷剤をリュックに詰め込んでの出発だったのだ。なにやら言い訳めいているが、万全の体調ではない。気温も30度を超えている。
 それにしても辛い。10分ほど登って早くも15分の休憩。リュックを下ろして、頭から首筋に水をかける。女性二人はリュックを担いだままで休んでいる。再び登り始めてすぐに女性の一人がギターを持ってくれた。私の辛い様子を見かねたらしい。10分ほどしてまた休憩。休ませてくれと私が要求した。
 ようやく山小屋が見えた。みんなはそのまま山小屋へ向かったが、私はへたり込んだ。
 
 山小屋の窓を開けると涼風が吹き込んできた。今夜の泊まりは私たちだけだ。汗でぐっしょりになったシャツを脱いで上半身裸になった。先ほどまでの意気地なしが、急に元気になった。眺望がすばらしい。遠く日本海まで見通せる。明るいうちに始めようと、さっそく野外に宴会場を設置。熱々の肉をほおばり、冷たいビールを呷る。至福の瞬間だ。苦労して担ぎ上げた最高のご褒美だ。こうなると私の元気は加速する。
「幽霊かと思った」とだれかが言った。知人が差し入れに1人で登ってきたのだった。保冷剤で冷やしたワインと塩イカ。「これを付けて食べるとうまいですよ」とキムチのタレまで・・・。うれしいやらありがたいやら。飲まないで下山するという彼を、無理やり飲ませて泊めることにする。遠い町の夜景を眺め、花火に興じ、歌をうたい・・・。小屋に引き上げてからも飲んで語り合ったが、話の中身はまったく覚えていない。私は上半身裸のまま布を被っていつの間にか眠っていた。
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 翌朝、知人は仕事があるからと早々と下山していった。朝のすがすがしさの中を初老の男性が登ってきた。週1回の大峰登山を欠かさないのだという。ゆっくりと朝食をとって下山。リュックが軽い。前日の登りはしゃべるのも億劫だったが、軽い冗談も口をついて出る。誰かが歌いだし、やがて合唱になった。

 帰路、温泉で汗を流した。だが足が重い。徐々にふくらはぎが痛くなってきた。帰宅しても動く気にならず、膏薬を貼って店は臨時休業。仲間たちはすでに次の登山の計画を立てている。わが身の体力の無さには驚くばかりだ。若い頃から、瞬発力はそこそこあるが、持久力に欠けているという自覚はあった。しかし、身体を鍛えたり体力保持に努めたことはほとんどない。衰えにまかすだけである。「山小屋ライフ」は偶然私の誕生日にあたった。これを機に歩くことからでも始めてみるか。

by yoyotei | 2010-09-01 18:13  

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