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八重子の刀自(とじ)

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 前のブログで「じっとしていない人」と書いた土浦の今井さんが秋田からの帰途、「八重子の刀自(とじ)」をともなってあらわれた。
 二年前に「出でませ子」と題したブログで、歌集『出でませ子』を紹介した。そのなかで歌のいくつかは紹介したが、じつは歌集名の由来について、あとがきに次のようにあったのだ。
 
(前略)ある日、日本書紀の中の歌垣の歌が話題になり、夫は傍らにあった筆をとり、すらすらと書きました。

八重子の刀自
打橋(うちはし)の頭(つめ)の遊びに出(い)でませ子
玉手の家の八重子の刀自
出でましの悔いはあらじぞ出でませ子
玉手の家の八重子の刀自

 この古歌は四十数年前に夫が私におくってくれたもので、結婚のきっかけとなりました。歌集名『出でませ子』は夫が書き遺したこの古歌からとり、題字は夫の最後の筆跡です。(後略)

                         
 刀自(とじ)は通常、主婦をいうが、あらためて「日本国語大辞典」(小学館)にあたってみた。
①家事をつかさどる婦人。主婦。②女性を尊敬または親愛の気持ちをこめて呼ぶ称。③年老いた女。老婦人とあった。
 なるほど、②の意味合いもあったのか。そうでなくてはなるまい。なにしろ「結婚のきっかけになった」のだ。「私の名前からすぐにこんな古い歌を連想するなんてね」と、八重子さんはかつて私に語ったことがある。その夫が最後の筆で「出でませ子」をしたため、旅立ってから来年の一月で六年目を迎える。今井さんとのやりとりからこの日、出でませ子と呼びかけた八木三男先生をしのぶ「臘梅忌」開催が決まった。

  『椨(たぶのき)』と名づけし追悼文集に賜りし篤き心と言葉          八重子

 『椨』に追悼文を寄せられた方々などを中心にご参集をお願いしたいと思っている。来年一月二十五日(金)、会場は夭夭亭。
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 ところで、「日本霊異記」に数ヶ所、「家室」という語句が出てくる。例えば「狐を妻(め)として子を生ましめし縁」(上/第二)には「彼犬之子毎向家室」とある原文が、「彼(そ)の犬の子、家室に向かう毎に」と訓み下され、「家室」には「イヘノトジ」と訓みがふられてある。また、その注には「家の主婦」、「とじ」は普通「刀自」の字を用いるとあった。
                            (『日本古典文学全集』 小学館)

 ここにも何度か書いたが「夭夭亭」は「詩経」の「桃夭」からの八木三男先生の命名である。「桃夭」第一章の末尾は「宜其室家」とあり、二章のそれは「宜其家室」とある。そして「室家(しつか)とは夫婦によって構成される家庭、また「家室(かしつ)」も意味はかわらず、押韻のためと説明されている。(『中国詩人選集』 岩波書店)

 今井さんには「臘梅忌」の案内など、ジッとしてはおられない年の瀬になるやも知れぬ。

by yoyotei | 2012-06-30 14:55  

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