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小説は終わり歴史が始まる

 まぎれもない歴史研究家だと思うのだが、みずからは「歴史愛好家」との自称にこだわる大滝友和さんから、ブラックベリーと3種の山野草を頂戴した。ブラックベリーは妻が、愛犬ナメロウの美容院への道すがら目を留めたのがきっかけだ。妻は実のなるものに目がない。ブラックベリーの家が大滝友和さん宅だった。連絡を受けて、鍬(くわ)持参で掘り起こしにいったのは私である。
 たくましく縦横に枝を伸ばしているブラックべりーを見て、そのたくましさを受け入れるスペースが、わが家の庭にはないことを知ったが、とりあえずはこの夏に手作りをした木製プランターを仮の住まいにしてもらった。このプランターは、勤務先のホテルの仕事仲間から朝顔の苗をもらったのに、やはり植え場所がないために急きょ作成したものだった。朝顔は濃い赤紫や青紫の大輪の花を咲かせて、秋の初めまで朝の楽しみをくれた。すでに種を収穫して来年に備えてある。
 山野草は、ジュウニヒトエ(十二重)、オダマキ(苧環)、ホタルブクロ(蛍袋)の鉢植え。花は次の季節まで待たねばならないが、 それにしてもこれら山野草たちに付けられた見立ての名前のすばらしさ。オダマキをもらったので、「しずやしずしずのおだまきくりかえしむかしをいまになすよしもがな」の連想が生まれ、さらに、義経伝説を題材にした『ジンギスカンの秘密』(高木彬光著)に連想は飛んだ。ヒトリシズカ(一人静)、フタリシズカ(二人静)は4、5月に林中に見ることができる。
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 11月末に行なわれる「大滝舞踊研究所発表会」の舞台稽古があった。製作中の大道具を舞台に上げて検討する。この日、ナレーションの台本が渡され、老人役の「出(で)」と「引っ込み」や、子どもたちとの絡みの段取りを確認した。子どもたちが帰った後、研究所主宰の大滝千津子さん、舞台監督(舞台照明家)、音響担当らで年金の話になり、「みんないい年齢になりましたねえ」と笑顔がはじけた。年に一度の顔合わせが30年にもなる。
 私の屋外作業場である。舞台に上げてみて何箇所かの修整の必要が生まれた。
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 初来店のHirokoさん。「こんなお店を探していたんですよ」と言ってもらった。新しい職場で1ヵ月。仕事に慣れて、私の店にも馴染んで欲しい。明るくて、独特の声が印象的だった。<酒が強い>と診断した。どうもお母さんを知っているように思うのだが・・・。
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 三女の同窓生たちが久々に店を賑やかにしてくれた。もっともこの日は日曜日で定休日。4人で貸切状態。最後は洗い物まで・・・。
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 曹洞宗大葉山普済寺(村上市大場沢)を訪れた。住職の角一覚隆さんに、私が所属するある会での講演をお願いするためである。
 住職は広島県出身である。隣県島根の出身の私とちょっとした親近感を覚えている。悠揚迫らぬ風貌は私よりもわずか1歳の年長とは思えない。夭夭亭への足は遠のいているが、開創500年、末寺13を有する名刹普済寺の庭園整備や、妻洋子さんを代表とする「まなび塾」の開催などに奔走してきた。今季第33号になる『普済寺だより』もおくってもらっている。昨年は「映像から暮らしと環境を考える会」の世話人として久しぶりに顔を合わせた。
 妻洋子さんは、北朝鮮による日本人拉致事件の解決を訴える取り組みや、自殺防止や犯罪被害者支援などの活動を精力的に続けてきた。しかし、今年4月死去。享年62歳という、惜しまれて惜しまれての早すぎる旅立ちだった。妻の仏前に掲げられた住職の漢詩には「酒を飲んでも味がしない」とのくだりが読み取れた。「やはり身内となりますと・・・」と、心中を吐露されて言葉を失った。
 差別や人権問題など、講演依頼はどこへやらで2時間も語り合った。最新号の「普済寺だより」の後記に「芝居『釈迦内棺唄』と出逢って」と題した一文がある。その中に「日々生活する中で人権、環境、平和に対して無意識、無関心に過ごし、気付きのないことは、私達がいかに知識をもっていないかに外ならない。私達の誰でもが差別意識を持っているのであり、加えて自分の意図しないところで差別に加担している事実がある。日常に蔓延(はびこ)る差別を見抜く目を養い、何が差別なのか学習する必要がある」と書かれてあり、「問題意識を持続し、地域社会の一員としての僧侶のあり方を、改めて考える機会を与えられた講演会であった」と結ばれている。
 妻洋子さん亡き後は、仏道修行中の娘さんが住職を支え、母洋子さんの遺志を継ごうとしているようだ。
 講演は「娘の方がいいかも知れませんが」と言いながら、引き受けてもらった。
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 20年前に「森と緑を守る全国集会」が村上市を会場に開催された。仲間たちとブナ林の伐採中止を求める活動を展開していた「三面川の原生林を守る会」を中心に、新潟県内の自然保護団体が実行母体になっての大規模集会だった。たくさんの出会いの中に、新潟市の市嶋さんという人がいた。
 山と渓流を愛し、使い捨ての割り箸に抵抗してか「箸屋」を始め、ブラックバスの湖沼への放流に憤慨し、引きこもりの社会的救済に発言や講演をし・・・・。ガンの宣告を受けて生前葬をし、小説を書き・・・・。
 その市嶋さんを囲んだ集まりのメンバーである。それぞれが多方面で社会的な活動に関わっている。この日、私は市嶋さんには会えなかったが、かつては何度か酒席を共にした。夭夭亭の2階に雑魚寝で泊まってもらったこともある。私の閉所恐怖症の訴えをじっくり聞いてくれた数少ない一人でもある。
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 勇気を出して店のドアを開けた二人の銀行マンが、仕事仲間を連れてきてくれた。右の二人がその<ご新規さん>で、右端の彼は結婚を控えているということから、この夜はしばし結婚談義となった。
 古今東西、結婚に関するアンソロジーは数知れないが、今年のアカデミー賞の授賞式で、ある受賞者のコメントが印象深かった。結婚がテーマだったその作品をふまえて受賞者は言った。
「確かに結婚(生活)は人生における大きな試練のひとつです。しかし、他の試練とちがうのは二人で乗り越えていくことのできる試練です」
 4人の銀行マンたちにもそのことを話した。だが、待てよとも思う。結婚して二人になるから試練が始まるのだ。結婚しなければ、そもそもその試練はない。「ウームッ」なのである。
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 釜爺として勤務するホテルは、かつて厚生年金の施設だった。そのために民間経営になった現在も健康型有料老人ホームを併設している。そこに5年ほど滞在するTogashiさんがいる(右端)。仕事に行くたびに顔を合わせ言葉を交わすようになったTogashiさんが、息子と二人の娘さんをともなって来店してくれた。息子さんは市内の総合病院の内科医で夭夭亭にも顔を見せる。二人の娘さんは薬剤師と歯科医。Togashi さんは開業医として60年も地域医療に尽くしたとして叙勲を受けたこともある人で、彼の先代も医者だったという医療一家なのだ。現在、90歳と7ヶ月のTogashiさん 。夭夭店来店の最高齢者にまちがいない。
 翌朝、職場でTogashiさんと、ホテルに宿泊していた二人の娘さんに会った。「少し飲みすぎました」とは90歳7ヶ月の弁。そして、娘さんたちは新潟市経由で札幌と鎌倉への帰路についた。新潟市には彼女たちの母、すなわちTogashiさんの妻が入院している。認知症がすすんでいるのだという。
 昼過ぎに内科医の息子さんが、「オヤジがちょっと熱があるというのでね」と老人ホームへ来た。
 このTogashiさん一家にも試練はあっただろうか。結婚によって築かれたファミリーの、この現在がある。

 銀行マンたちとの結婚談義に、あらためて思いを馳せて、ネットの「名言集」を開いた。 
「結婚は人生に似ている・・・それが戦いの場であって、バラの園ではないという点で」
      (ロバート・ルイス・スティーブンソン;1850-1894/イギリスの小説家・詩人・エッセイスト)
「男性が持っている最良の財産、あるいは最悪の財産、それはいずれにせよ自分の妻ということになる」
      (トマス・シラー:1608-1661/イギリスの聖職者・作家)
「男は結婚するとき、女が変わらないことを望む。女は結婚するとき、男が変わることを望む。お互いに失望することは不可避だ」
      (アインシュタイン:1879-1955/理論物理学者・ノーベル物理学賞受賞)
「結婚には多くの苦痛があるが、独身には喜びがない」
      (サミュエル・ジョンソン:1709-1784/イギリスの詩人・批評家・文献学者)
 私が気に入ったのはこれだ。
「男と女が結婚したときには、彼らの小説は終わりを告げ、彼らの歴史が始まるだろう」
       (ロミュビリュズ/詳細不明)
 そして私は、こうも付け加えたくなる。
「・・・歴史は男を哲学者にし、やがて宗教者を育てるだろう」
 女のことは・・・わからん。

 朝6時。ようやくブログの更新ができた。近くのお寺で鐘が撞かれた。時折の遠雷。窓の外が白くなった。

by yoyotei | 2013-10-30 06:11  

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