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あなたの居場所がここにはありますよ

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『大町文庫』では獨協大学教授の新井敬重さんを招いて講演会を開いた。日本の中世史を研究領域とする新井教授の、この日の話は「日本中世の戦争と民衆」。およそ20名ほどが文庫の重量感のある大テーブルを囲んで話を聞いた。例によって私は講演後の飲み会準備で、話は聞くことができなかったが、頂戴した資料からだけでも興味深い話が想像できた。
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 講演後の飲み会では、文庫の館長瀬賀ドクターから提供された多種多量のワインの封が切られた。<獨協-独逸>という連想からだったか、ドイツワインも・・・。
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 かつて職場の同僚だったという3人さん。陽気な酒が、ドクター瀬賀からワインを薦められて陽気さアップ。とびっきりの笑顔がはじけた。
 カウンターでもてなしているのは村上市の市会議員。かつては、共にPTAで活動した仲間でもある。村上生まれの村上育ち。遠来の客に村上をアピールしていた。
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 この夜飲んだワインを列挙してみる。
Haut-Tropchaud/Pomerl(仏1999)
CROIX DE BEAUCAILLOU/SAIT‐JULIEN(仏2006)
Cuatro Rayas/RUEDA(西2012)
Abadengo(西2008)
Garnacha negra(西)
Von Hovel(独2011)
Yellow tail/CHARDONNAY(オーストラリア)
Yellow tail/MEROT(オーストラリア)
Leopold Gournel(仏コニャック)
 同じものが2本というのもあるから相当の本数が胃袋に収まり、脳髄を蕩(とろ)けさせた。コニャックまでも空になっていた。
 後日、ドクター瀬賀に<これまで飲んだ最高量>を尋ねた。日本酒で1升5合ということだった。偶然だが、私も一人で1升5合飲んだのが、自慢にもならない最高記録だ。ドクター瀬賀は前後不覚になったという。私は頭から水をかけられて一瞬われにかえったが、やはり・・・。40数年も昔だ。
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 富山のMsamiちゃんが、今回は夫Makoちゃんこと、Masahikoさんを伴っての来店だ。<いい夫婦>は笑顔が似ている。Makoちゃんはほんとうに穏やかで、怒ることは一生ないだろうと、<怒りっぽい>私は思う。
 Shinちゃんは、相変わらず雄弁である。そして、<いい声>をしている。
 前回、彼らに村上の日本酒をプレゼントしてくれたドクター村山とも再会となった。人はさまざま出会いの中で生きているのだと、しみじみ思う。
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 富山湾の特産・珍味をこんなにも持参してくれた。<黒作>のイカの塩辛もあった。ある本をめくっていたら、「烏賊(いか)の黒作をもらひたる禮」(大町桂月)という文章に出会った。
「昨夜親戚の婚礼の宴にのぞみて深更(しんこう)家に帰る。京都なる旧友来たって待って居る。御恵贈の珍物烏賊の黒作が来て居る。よろこばしきことの重なりたる日哉、その友は酒豪也、相共に黒作をなめては一杯また一杯、終に暁に達し申し候。謹んで御好意を感謝いたし候」(『作例規範/文章寶鑑』大町桂月編著 1925年発行/1979年複版発行・柏書房)
 私も口を黒くして酒を飲んだ。店の客も何人かがこぞって口を黒くした。大町桂月同様に「謹んで感謝いたし候」である。
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 こちらは鼻の頭が黒い我が家のナメロー。熟睡中はちょっと舌が覗く。3日ほど食がなく心配したが、元気を取り戻した。
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「大滝千津子舞踊研究所」の発表会では、地元の演劇集団「村上浪漫派」の武田美和子さんと初共演をした。彼女はマローンおばさん、私は天国の門番・聖ペテロという役どころ。久しぶりに短い台詞もあったが、本番で言葉の前後をまちがえた。それでも、感動的な作品に仕上がって、構成・振付・演出の大滝千津子さんは、来年の再演を決めた。
 今年の発表会では、他にも2作品に出演した。楽屋で小さい子の世話をしていたお母さん。どこかで会ったことのある人なのに思い出せなかった。先日、2ヶ月ぶりに眼科に行ったら、看護師さんから声をかけられた。そのお母さんだった。マスクのあるなしで顔は変わる。「(作品を観て)涙が出ました」と感想をもらった。
 
 隣家の故本間桂先生の一周忌に、高知から帰ってきた長男と、ドクター瀬賀が発表会を観にきてくれ、舞台がはねた後、イタリアンの店でワインを飲んだ。翌日はカナダから帰国した次男、大阪での長男の結婚式から帰ったばかりの歴史愛好家大滝友和さんを交えて料理屋でワインを飲んだ。その翌日は私の店でワインを飲んだ。三日続けてワインに漬かった。
 
<夭夭亭>の命名者・故八木三男先生の夫人・八重子の刀自(とじ)が村上を去った。その前夜、これから近くに住むことになる娘の絹さん、ドクター瀬賀の4人で<別離>の膳を囲んだ。歌人でもある八重子の刀自との席に、ドクター瀬賀は「百人一首」を持参した。別れに臨んで、彼は<言霊(ことだま)>の語句を入れて一首を詠んだが、私のはモノにならなかった。それよりも、「百人一首」を教材に、元高校の国語科教師だった刀自からちょっとした講義を賜ったのは幸運だった。それは「忍ぶれど色に出(い)でにけり我が恋は物や思ふと人の問ふまで」(平兼盛)「恋すてふ我が名はまだき立ちにけり人知れずこそ思ひそめしか」(壬生忠見)の2首が、ともに天徳4(960)年内裏歌合で披露され、優劣の判定の結果「忍ぶれど」が勝ったという経緯(いきさつ)。しかし、優劣の判定は現代に至るまで論争のタネになっているというものだった。

「百人一首」には「八重葎(やえむぐら)しげれる宿のさびしきに人こそ見えね秋は来にけり」(恵慶法師)の一首がある。八重子と八重葎との関連から<鑑賞>の本を開いてみた。『百人一首/全訳注』(有吉保 講談社学術文庫)だ。「葎」はつる性の雑草で、荒廃した邸宅に茂るという。住む人のいなくなった八木邸。秋が来て、やがては雪に覆われる。
『全訳注』には、恵慶法師の次の2首も紹介されていた。
「すだきけむ昔の人もなき宿にただ影するは秋の夜の月」
「草茂み庭こそ荒れて年経ぬれ忘れぬ物は秋の夜の月」
 どの歌にも哀感が漂う。新しい土地での、八重子の刀自のおだやかな日々が続くことを願うばかりだ。
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 自宅の裏庭に奇妙なキノコを発見した(上)。林業研究所の石黒さんが、その<正体>を暴くのに尽力してくれた。結果は「コツブタケ(小粒茸)」。切ると内部に小粒の塊が詰っている。命名の由来だ。その写真を撮影した人は<コツブさんゴメンナサイ>と誤りながら、<キモい>を連発していた。しかし、私は自然の造形の妙に感心する。食用には適さないということだ。
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 新井教授から丁重な墨書の手紙と共に2冊の著書が贈られて来た。『蒙古襲来-戦争の日本史7-』(吉川弘文館 2007)と『黒田悪党たちの中世史』(NHKブックス 2005)だ。飲み会の時に、すでに少しだけ目を通していた『楠木正成』(吉川弘文館 2011)について、私は新井教授の文章を褒めた。後になって大学の研究者の文章を褒めるなどという生意気で不遜な振る舞いを反省したが、寄贈していただいた2冊からも、<いい文章・好きな文章>だと思った。さらに、『黒田悪党たちの中世史』では章扉に新井教授の手になるイラストも載っていた。手練の技である。多才な人だ。
 手元の著書3冊。いまだ1冊も読了できていない。ノートを取ったりしながらの読書だが、酒が入るとそこで中断となる。度々の中断はいうまでもない。なかなか読み進められない由である。

「大滝千津子舞踊研究所」の発表会で聖ペテロを演じた作品は、エリナ・ファージョン原作「マローンおばさん」を構成したもので、タイトルを「居場所」という。
 森のそばで、一人貧しく暮らすマローンおばさんの所に、寒さや空腹で弱り果てた猫や狐、リスや小鳥などの動物たちが、次々とやってくる。「あんたの居場所くらい、ここにはあるよ」。そう言っては、彼らを家に招き入れるマローンおばさん。
 ひどく冷えたある朝、マローンおばさんはいつまでたっても目を覚まさなかった。動物たちはマローンおばさんを天国へ連れて行く。天国の入り口には門番の聖ペテロがいた。動物たちは訴える。「私たちの母さん、マローンおばさんは貧しくて何も持っていなかったけれど、広く大きな心で、私たちに居場所を与えてくれました」
 それを聞いた聖ペテロは「あなたの居場所がここにはありますよ」と手を差し伸べてマローンおばさんを天国に迎え入れ、王座に座らせる。壮麗な音楽と共に、周りを天使たちが舞い踊る。
 リハーサルを終えて、本番前の食事をとりながら音響スタッフたちと<居場所>の話になった。職場や家庭での自分の<居場所>についてだ。かつて「居場所探し」ということが言われた時代があった。家庭に自分の居場所がなくて帰りたくない、帰宅拒否症候群などといった言葉もあった。自分が自分らしく、いちばん安心していられる場所。そこが<居場所>だろう。 

 発表会では昨年に続いて「曼陀羅」という作品も上演された。かつて「インド曼陀羅」「にんげん曼陀羅」というタイトルで、新聞折込のミニ情報紙に10年にわたってエッセイを書いたことがある。「曼陀羅」という言葉には思い入れがあった。そんなことから、上演作品「曼陀羅」に寄せた私の文章がプログラムに掲載された。

 震える大地 押し寄せる波濤 容赦のない災禍(わざわい)   
 水に流れ 風に朽ちる骸(むくろ)
 慟哭して天を仰ぎ 頭(こうべ)を垂れて祈り また天を仰ぎ・・・

 ある者は何処へ行くのかと問い
 ある者はそれでも行くのかと訊く

 襲いかかる 終わりのない試練
 それこそが生命(いのち)の旅か
 ヒー・ラーム ヒー・ラーム ああ神よ われらを造り給うた宇宙よ
 われらの魂を連れて行け 安らぎと永遠の生命のふるさとへ

 今年もあと一ヶ月。このブログ、年内にもう一度くらい更新できたらと思うが・・・。
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 主(あるじ)が入院して無人になった家の、窓の下に咲いていた。<居場所>を見つけた綿の花である。

 このブログの2009年12月「犬のボトル」に紹介したロコと飼い主のSさん。数日前にSさんの訃報が風に乗って伝わってきた。ロコは、当地から姿を消してまもなく、交通事故で死んだという。

 俳優の菅原文太さんも亡くなった。アニメ映画「千と千尋の神隠し」では釜爺(かまじい)の声優をつとめた。私も一部で釜爺といわれる。気をつけよう。天候が悪化した。大荒れである。
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by yoyotei | 2014-12-01 14:58  

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