覿面(てきめん)の今
結婚前後の10年ほど前には、時々顔を見せていた青山夫妻。この夜、貰った眞弓さんの名刺には<ヒプノセラピスト>とあった。「催眠療法セラピールーム<心の庭>」を開設していて、「出口が見えないと思う時でも自信が持てないと思う時でも、潜在意識は輝きを失いません」と、眞弓さんのメッセージが添えてあった。
元自衛官の夫は、物静かでいて磊落。夫と妻、それぞれの<心の庭>に同じ花を咲かせているのだろう。新鮮さを失わない二人だ。
不識庵こと渡辺さん(左)は、昼間私が働くホテルの職場の仲間でもある。お互いのブログを訪問し合い、そこへ不識庵さんの友人・青山夫妻がアクセスして、この夜の来店となった。楽しい語らいだった。
教員仲間のHirokoさん&Izumiさん。Hirokoさんは昨年暮れにつづいて1ヶ月ぶり。
<禅>を人生の指針にしている不識庵さん、<心の庭>を広げている眞弓さん、曹洞宗の寺族でもあるHirokoさん。
『現代人のための仏教の知識百科』(ひろさとや監修/主婦と生活社)に「覿面(てきめん)の今」の解説があった。「どうにもならない過去にこだわり、やって来ない未来に怯えてあれこれ迷ってはならない。覿面の今(目の前にある今)を誠実に精一杯に生きること。それだけが私たちにできる<いっさい>なのだ」とある。
<覿面の今>は「一期一会」にもつながる。「私がいま会っているこの人に、精いっぱい会おうではないか」
私としては、あらためて<一期一会>を強く意識したい。「幾度おなじ主客交会をするとも、今日の会に再び帰らざることを思えば、実に我一世一度の会なり」。『茶湯者覚悟十体』(山上宋子著)にいう茶の湯における一期一会だが、まあ<酒>でも同じだろう。
昨年からの約束どうり、土浦の今井さんがやってきた。北陸の旅の終わりに村上まで足を伸ばしてくれたのだ。相変わらずの軽快なフットワーク。オーラとエネルギーが周囲に拡散していく。<今日の会に再び帰らざることを思えば・・・>。会う、その度その度が一期一会なのだ。、
今井さんが北陸の旅に携行していたのは稲葉範子さん(左)の歌集だった。夫と共に農業を営み、農閑期にはスーパーの魚屋で包丁を握る。子育ての悩みや厳しい農業の現実。そして束の間の安らぎ・・・。日々の明け暮れが短歌となって範子さんの歌集が生まれた。
この夜は、ドクター瀬賀、介護施設を営む佐藤さんも合流し、範子さんは「佐渡おけさ」を気持ちよさそうに歌った。
夜が更けて夫が妻を迎えに来た。
数年前、範子さんは中央の歌壇で大きな賞を受けた。そのときに出版された歌集を私も頂戴した。歌を紹介したいと探したが見つからない。どこに紛れ込んでいるのか。歌集が見つかったときに、あらためて紹介する。
最近、髪型が変わったムラタ兄も加わって記念撮影。酒場で出会う人の多くが、こうして知人となる。
フリージャーナリスト後藤健二さんの「イスラム国」による殺害映像がインターネット上に公開された翌日、朝日新聞の<天声人語>はこう書いた。
「後藤健二さんは頭の左上に何やら視線を感じたそうだ。目をやると、棚に40センチほどの木彫りの女性像がたたずんでいた。アフリカ中部ルワンダの、女性たちが手作りした品を売る店でのこと。祈る姿の像を手に取り、じっとみつめたという」
私は読んでいないが、後藤さんには『ルワンダの祈り』という著書がある。<天声人語>は続ける。
「イランの映画監督マフマルバフ氏がかっつて、大意こう述べていたのを思い出す。<(アフガニスタンなどの)タリバーンは遠くから見れば危険なイスラム原理主義者だが、近くで個々を見れば飢えた孤児である」。これまでの後藤さんのまなざしにも、重なるものあると想像する。貧困や無知といった暴力の温床を断ちたいと、弱い人々の姿を伝え続けたのではなかったか。無念のいかばかりを汲み、今は祈りを捧げたい」
上の木彫り人形は20年近く前、ネパールのチベット難民が営む土産物屋で、一緒に旅をしていた次女が手に入れた。<ナマステ人形>と称している。穿(うが)たれた瞳は遥か遠くを見ている。視線の先にあるのなんだろう。後藤健二さんが見ていたのと同じ現実か。
生存権裁判9周年記念講演を聞いた。
生存権裁判とは、生活保護の改悪で、老齢加算や母子加算を打ち切られた高齢者や母子家庭が、人間らしい暮らしと生きる希望を取り戻すために起こした裁判。憲法25条1項が保障する生存権「健康で文化的な最低限度の生活」を守るための闘いであることから、「生存権裁判」と呼ばれている。2005年京都地裁に最初の提訴がなされてから9年が経過し、提訴者は9都道府県で100人以上にのぼる。
記念講演は「新潟生存権裁判を支える会」が主催した。講師は板垣淑子さん。NHK大型企画センターチーフプロデューサーとして、「ワーキングプア」、NHKスペシャル「老人漂流社会」シリーズなどを手がけ、現場から年金、生活保護、医療・介護の貧困を伝えている。
「老後破産」と題したこの日の講演。放映された番組の一部を視聴しながら、実態を語る板垣さんの話に、涙が滲んできた。そして猛然と怒りが湧いてきた。
東京23区内で年間3000人近い人が孤立死だという。ライフスタイルとしての高齢者の一人暮らしが急増しているが、今の社会保障制度は、高齢者が家族と同居していることを前提にしていると、板垣淑子さんは指摘する。
<高齢者人口が3000万人を突破し、深刻なのは600万人を超える一人暮らし高齢者。その半数の300万人が生活保護水準以下の年金収入しかない。生活保護受給者はわずか70万人、230万人は生活保護を受けていない>(講演パンフレットから)
新潟市内の95歳と89歳(死亡時)の女性、89歳の男性の3人が、老齢加算の減額廃止を内容とする、保護変更決定処分の取消等を求めた裁判が<新潟生存権裁判>だ。これに対して、最高裁判所第1小法廷は、今年1月19日、憲法25条違反には当たらないとして上告を棄却し、上告受理申し立てに対しても不受理とした。
「番組放映によって高齢者が置かれている現実への理解がすすんできたと感じる。しかし霞ヶ関は・・・」
板垣淑子さんの述懐だ。政治が行政が、さらに司法までもが壁となって、孤独の中で困窮し漂流する高齢者たちに立ちはだかっている。暗澹として帰路に着いた。
都内で公認会計士・税理士事務所を開設している前田さんは時々の週末に故郷へ帰ってくる。偶然、同窓生のエミちゃんに会った。エミちゃんの店<やすらぎ処「石亀」>は、駅近くにあった借り店をやめて、昨年の暮れに実家を改造して新しくオープンした。昼のランチの評判がいい。
この夜、前田さんは妻の栄美子さんを同伴していた。飲むほどに社交性が増す栄美子さん。書棚を製作してくれた石栗さんとツーショットとなった。この夜、それぞれに<知り合い>が一人ずつ増えた。
「2年ぶりでしょうか」と笠原大志さん(35歳)は言った。新潟県五泉市に生まれ、現在は首都圏の私鉄に勤めている。村上が好きで、何度か訪れているが、その度に顔を見せてくれる。村上好きが高じて、今回は村上で就職すべく面接に来たのだという。
「マスターの歌声を聞かせてください」と言われてギターを手にした。Aマイナーのコードをボロ~ンとストロークしたら、<今日の仕事はつらかった>と、なぜか「山谷ブルース」が口をついて出た。歌い終わると、笠原さんは氷を入れたふたつのグラスに、ドボドボとウイスキーを注いだ。二人だけになった酒場でグビグビ飲んだ。
村上の就職決まるといいね。デジカメにSDカードが入っていなかったので、笠原さんは似顔絵になった。
by yoyotei | 2015-02-13 17:38