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海と酒、そして村上を愛し、なによりも人を愛したナイスガイ眠る

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マイクが死んだ・・・。
アメリカ人のマイクだから、神に召された、昇天したというのがふさわしいのだろうが、彼の死から2週間たった現在でも、その「死」は忽然とこの世から消滅したという以外に受け止めようがない。苛烈な病に斃(たお)れた、その厳然とした事実をそのままに受け止めることしかできない。とはいっても、その「死」に向き合い、知遇を得たマイクという人間とその存在について思いをめぐらせずにはいられない。娘たち夫婦や孫たちが大挙して押し寄せた夏の喧騒が終わり、秋の気配とともに、ようやくマイクと向き合う静かな時がおとずれた。

 2年前の「村上・笹川流れ国際トライアスロン」(2011年9月25日)の実況スタッフの打ち上げで、初めてマイクに会った。私の実況放送パートナーのMiyako さんが、実家の「割烹千渡里(ちどり)」の客でもあり、ボランティアとして参加していたマイクを呼び寄せたのだった。(ブログタイトル「ゴールゲイトへ」に初めてマイクが登場する)だが、マイクが次に私の店に顔を見せるまでにはかなりの日数があった。
 ある夜、ためらいがちに店のドアを開けたマイクは、それからというもの金曜日と土曜日の夜は、きまって顔を出すようになった。今になって思えばその頃にマイクは病気の発症を知ったにちがいない。

 カウンターの端に座るのを常としていたマイクだったが、そこは生ビールのサーバーが近い席でもあり、自分で生ビールを注ぐのも常とした。お代わりも、「シンジさん」と私に声をかけ、空になったジョッキをかざし、目で合図を送ってからビールを注いだ。他の客が生ビールをオーダーすれば、マイクはあたかもそれが、当然の自分の仕事だといわんばかりにビールを注いで運んだ。ただマイクの注ぐビールは泡が少なかった。むしろ、泡を立てないのがマイクの流儀だった。それでもマイクが注ぐ泡のないビールに文句をつける客はいなかった。フレンドリーな中年のアメリカ人というマイクのキャラクターは、私の店の週末の「顔」になっていった。日本語での会話が可能なことも親密度を高めた。なかでも「週末常連組」とは親しさ以上の仲間意識が深まっていった。仲間意識の深化は、皮肉なことに病気の進行と同時だった。
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 マイクが悪性リンパ腫に冒されていることを口にしたのはいつだっただろう。すでに左腕の付け根から胸にかけて肥大が始まっていた。治療のための病院を千葉から、通院しやすい新潟へ替え、「シンジさんと同じになった」と抗癌剤で薄くなった頭髪を笑ったりした。
 昨年5月の「魚まつり」には元気に参加したマイク。昨年春の野外パーティーでも、夏の瀬波海岸でのBBQでも、マイクは得意のアメリカン野外料理を大量に準備した。そのマイクが今年の「魚まつり」は酒も飲まずに途中から帰った。春の野外パーティーでは料理を準備してくれたが、酒を飲むマイクではなかった。そして、病気治療のためにアメリカに帰ったマイクのいない、この夏のBBQは私の店での飲み会になった。

 まだ客のいない早い時間や、にぎわいの後の深夜、マイクと二人きりでさまざまなことを話した。ベトナム戦争では後方で航空機の整備にあたっていたこと。ボーイング社の社員として世界のあちこちをめぐってきたこと。アメリカの父母や日本人の妻のこと。故郷マイアミの海のこと、アメリカの社会保障制度や、自分の親族には犯罪者もいるといった赤裸々なところにまで話は及んだ。
 そして、医者から余命2年、と宣告されたことをうちあけた。
 それでも「だいじょうぶ、人生楽しめばいい」というのが彼の口癖だった。迫り来る「死」に不安や恐れはないかと水を向けても、「だいじょうぶ、人生楽しめばいい」との返答は変わらなかった。だが、マイクの酒はビールから、度の強いジンに変わり、その量が増していった。
 二人だけになったある深夜、マイクの酒が止まらなくなった。放っておけばいくらでもいつまででも飲むように感じ、私の方が怖くなって止めた。死神に立ち向かうには酔いが必要な夜だったのだろうか。タクシーで帰れというのを断固として拒否し、闇の中をゆれながら、誰もいない部屋へ帰って行くマイクだった。

「見ましたか?」とマイクが紹介した映画を、マイクの死から1週間もたってから見た。アメリカ映画『最高の人生の見つけ方』(The Bucket Rist)だ。大富豪と自動車整備工、余命わずかな二人がこれまでやり残したことをするために旅に出るというストーリー。ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンの共演だ。
 自分の死を見つめながらマイクが見たこの映画を何度も見た。そして、マイクにすまなかったと悔やんだ。あのとき、すぐに見ていれば、マイクのメッセージを受け取ることができたはずだったのだ。
 マイク、あんた、命がある間にしたいことがあったんじゃあないか。あんたの心の「棺おけリスト(The Bucket Rist)」には何が書かれてあったんだい?
 映画の中で語られたフレーズがある。
「自分の人生に喜びを見出したか?他者の人生に喜びをもたらしたか・・・・・?」
「人の一生の価値など容易には測れない。私は互いに認め合った人物が測りあうのがいちばんと信じている」
 もしかしてマイク、あんたが伝えたかったのは「棺おけリスト」なんかではなくて、この言葉だったのかい?そうだとすれば、私は、少なくとも「チーム長ネギ」の私たちは、あんたと過ごした、長くはないが濃密な時間のなかで、お互いを認め合ってきたはずだ。あんたの人生の終末の部分で、わずかばかりでも私たちとの時間が<人生はよかった>」と言わしめることになったとしたら、これほど嬉しいことはない。そして、あんたとの出会いと<死>が、これからの私たちに、どれほど大きく、生きる意味と大切さを教えてくれたことか。そのことを心から感謝する。ありがとう、マイク。
「われわれは互いの人生に喜びをもたらしあったと言っても偽りにはならないでしょう」
 これも映画の中のせりふだ。
 信義に厚くて、日本人よりも日本人らしいといわれたマイクが最後に約束を破った。2ヶ月ほどのアメリカでの治療を終えたら帰ってくるという約束だ。週末常連組「チーム長ネギ」のみんな、いつの日にか、あちらの世界へ行ってマイクに会ったら言ってやろうじゃないか。
「いつまで待っても、あんたが帰ってこないもんだから、こちらから来ちゃったよ」

墓碑銘
   海と酒、そして村上を愛し、
               なによりも人を愛したナイスガイ、マイケル・ビショップ眠る。
                                       2013年8月7日
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 夭夭亭という酒場でマイクと出会った人たち。絶妙なバランスの「テキーラ・ボンバー」を飲まされた人たち。泡のないマイクビールを飲んだ人たち。ジャック・ダニエルをドバッと注がれた人たち。あなたの酒飲み遍歴の中にマイクがいたことを忘れないで欲しい。マイクは旅立ったが、夭夭亭で酒を飲めばあなたの心の中にマイクはすぐに帰ってくる。
 そして、飲み残されたマイクのキープボトル「タンカレー」は永久保存だ。いつ飲みに戻って来るかもしれないマイクなのだ。
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by yoyotei | 2013-08-23 15:13