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杏さん

ある会社の窓口で、「杏」さんという方が応対してくれました。名札にはふりがなが付けられていましたが、なんと読むのかは最後に明かします。あまりにも珍しい姓なので思わず話しかけました。長野県の出身だそうですが、近くに同姓はないということでした。

帰宅して『難読姓氏辞典』に当たってみました。「杏」の姓はありましたが、「キョウ」と読むのだそうです。でも窓口の方は「キョウ」ではありません。

「杏」の字には長い間、ちょっとしたわだかまりがありました。
中国料理でrデザートに出される「杏仁豆腐」。スーパーの冷菓のコーナーに、それを見つけたとき、僕は自然に「キョウニン豆腐」だと思っていました。ところが、日常的に食べていたらしい娘たちは、「アンニン豆腐」と称していたのです。異議を唱えるほどではないものの気にはなっていたのです。

現在も健在かどうか知りませんが、江波杏子という女優がいました。彼女は「キョウコ」であって、「アンコ」ではありません。森鴎外にはたしか「杏奴(アンヌ)」という娘がいました。

『広辞苑』(昭和42年版)を引いてみました。
きょうにん[杏仁]杏子(あんず)の実の核中の肉。薬用にする。関連語として「杏仁水(きょうにんすい)」「杏仁油(きょうにんゆ)」があります。

つぎに「アンニン」です。
あんにん[杏仁](「杏(あん)は唐音)杏子(あんず)の実の核中の肉。薬用にする。きょうにん。

なんと、同じではありませんか。「アン」と読むのは唐音だったのです。簡便な「漢和辞典」によれば漢音では「コウ」、「キョウ」と読むのは呉音です。
さらに意味を探ると「あんず。からもも。イバラ科の果樹」とあります。
「からもも」、なるほど「唐桃」か。

そうです。「杏」さんは「からもも」さんだったのです。
なんとも珍しいお名前でした。

ところで、前回の店名の由来「夭夭亭」です。
詩経「桃夭」の「夭」は「若く美しいさま」という意味ですが、台湾の若い女性から「この字よくない」と言われたことがあります。たしかにこの字は「夭折」「夭逝」など、熟語からの変換でないと出てきません。どちらも「若死に」という意味です。
まあしかし、「夭」を音符とする字には「妖」「笑」「沃」などの字もあります。居酒屋にふさわしい「呑む」という字もあるのです。(もっとも本来「呑」の正字は「天」の下に口で、「夭」に口は誤字だそうです。今は「呑」が使われていますが)

いずれにしましても、「若くて美しい」のは僕ではありませんし、「妖しい」のも僕ではありません。
ましてや酒の「呑み」過ぎで、いまあの世に旅立ったとしても、62歳の僕を「夭逝」だとか「夭折」などという人はいないでしょう。
「笑って」送ってくれること、まちがいありません。

「からもも(唐桃)」さんと「桃夭」。桃つながりでした。

by yoyotei | 2009-12-01 01:19 | あれこれ  

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