スリの手口

 ベトナムでスリの被害に遭った。
 その日、ホーチミン市の繁華街にある市場で買い物をした。どの国でも市場は土地の人々の生活文化を陳列した博物館の趣があって好きだ。市場といってもここは大きな建物の中にある。建物は、かつて宗主国だったフランス風の外観をしている。だが、中に入ると活気に満ちた喧騒と、東南アジア特有の色彩にあふれていた。市場を出たときには、ベトナム料理の食材や、ホテルで食べようと買った果物などで両手がふさがっていた。市場の周辺にはさまざまな商店が軒を並べ、行き交う人々の中には外国人旅行者も少なくない。
 通りを渡ろうと足を止めたとき、十歳前後の少年三人が立ちふさがった。彼らは絵葉書を挟んだファイルを両側から目の前に突きつけて、なにやら語りかけてきた。言葉は分からないが絵葉書を買ってくれと言っていることはすぐに理解できた。「いらない、いらない」と首を振って拒むと、彼らは意外なほどあっさりと立ち去った。その間十数秒。それだけのことだった。
 ホテルの部屋に帰り、腰に巻いていたウエストバッグをはずした。バッグのファスナーが開いていた。自分が閉め忘れたのだと思った。
 翌日、帰国した。自宅で荷物を解き、現像に出そうと撮り終わっていた使い捨てカメラを探したが、どこにもなかった。記憶をたどって絵葉書売りの少年たちに行き着いた。呆然として、その後すぐに感心した。鮮やかなものだ。絵葉書のファイルでウエストバッグへの私の視線をさえぎり、ファスナーを開いたのだった。バッグの中にはカメラのほかに手探りでは財布とも感じられる安物の小物入れも入れていたが、それもなくなっていた。どちらにしても少年たちの稼ぎになるようなものではない。してやったりと得意になって引き上げた後、「なんだ、こんな物」と落胆した彼らの表情を想像した。

 インドではビデオカメラと、使い捨てではない本物のカメラを盗まれたことがある。こちらも手口は鮮やかだったが、感心するどころか猛烈に腹が立った。
 顛末はこうである。
 ムンバイから南のゴアに向かう夜行バスに乗った。予約しておいた座席になぜか一人の若いインド人が座っていた。予約券を見せて席を立つよう要求したが言葉が通じないのかどうなのか、容易に応じない。数人の客が座席番号と私の予約券を見比べて男をうながし、ようやく男が席を立った。私はショルダーバッグとリュックを座席におろし、周囲に安堵の笑顔を向けた。
 バスが走り出して数分後、ショルダーバッグが消えていることに気づいた。私は前後を忘れて大声を上げ、バス中を探した。乗客の足元や座席の下までかがみこんで探し回った。何人かの乗客もいっしょになって探してくれたがどこにもなかった。
 ショルダーバッグは、あの若いインド人とともにバスを降りて行ったか、バスの窓から仲間の手に渡されたのだろう。バッグにはカメラとビデオカメラ、旅の日記が入っていた。
 インドの闇を突っ走る夜行バスの中で、まどろむたびにショルダーバッグが現れては消えた。

 この次、ベトナムへ行くときには、ウエストバッグの中の物に長めの紐でも付けてみようかと思う。「おい、おい」と紐をたぐり寄せて、あっけにとられる少年の顔を見てやりたい。そして、ニヤッと笑って頭でも撫でてやろうかとも・・・。


 双子姉妹の一人ユミさんが、日曜日に一人でインドへ旅立ちました。
 出発前、店に顔を見せてくれました。さまざまなトラブルが待ち受けているインド。適切なアドバイスはできませんでしたが、「自分のことは自分でする。近づいて来るインド人を頼らない」「できるだけ単独行動はしない」
など、基本的なことを伝授しました。
 今頃は西部ラジャスターンで、駱駝に乗っているかもしれません。
 元気で大きなトラブルもなく、無事な帰国を祈っています。旅の話を肴にまた飲みましょう。

「スリの手口は」僕の体験したことです。
 何年か前に、列車の中で盗難にあった日本人バックパッカーが、犯人を追いかけて走る列車から飛び降りた話がありました。それも若い女性です。幸い怪我はなかったそうですが・・・。

 昨日は暖かかったのに、今日は朝から雨。午後からは雪に変わりもくもくと降り続けています。
 砂漠で駱駝、インドにいるユミさんがうらやましくなります。
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by yoyotei | 2010-01-21 14:22  

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