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年常ニ春ナラズ酒ヲ空シクスルコト莫(ナカ)レ

 年賀状を出さなくなって久しいが、それでも毎年、何通かは頂戴する。そんな中に封書で届く年賀の挨拶状がある。自宅の隣、故本間桂・笑子夫妻の次男でカナダ在住のシノブさんからのものだ。書かれてある今年の計画には、姪の結婚式出席、妻の母の米寿の祝い、娘の30歳と自身の65歳の合同誕生会などとあり、8月には母の七回忌で村上を訪れると記されてあった。もう七回忌とは・・・・・。今年もさらに早くなった時の流れに、ため息交じりの感慨に沈む。
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 寒さに閉じ込められて鬱々している私は、少し前に<春になったらしたいこと>をまとめてみた。「巣箱を取り付ける」「スマホを購入する」「神楽面をつくる」「燻製をつくる」「側溝の蓋をつくる」などなど。
 昨年の秋、紐が外れて落下した巣箱は、数日前にたまたま通りかかった近所の知人に頼んで取り付けてもらった。高所に弱い私とちがって、知人は理想的な高さに設置してくれた。1昨年巣箱にスズメの姿を確認したのは6月だった。その時期が待ち遠しい。
 スマホは春になる前に購入した。こうした<モノ>にもきわめて弱い私はまったく使いこなせないでいる。店に来たヨシマサさんに<ライン>をつないでもらったが、発信どころか受信があるとドギマギする。つながった人に無作法をしていないかも気になっている。
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 神楽面(かぐらめん)は石見神楽で使われる面で、基本的な作り方は、石見神楽が盛んな浜田市の小学校時代に体験している。型をつくる粘土は30年も前に益子焼の土を30キロばかり購入したものがある。その時には、いずれ窯(かま)でも手に入れて焼き物をと思っていたが、高価な窯には手が届かないでいる。
 ここのところ、島根県の同窓生から送られたりした石見神楽のDVDを見る度に「鬼」の面に魅せられている。おどろおどろしく、ちょっと滑稽で哀しい「鬼」。子どもの頃から、「鬼」は私にとって「舞(まい)」のヒーローだった。(私たちは石見神楽を舞と言っていた)。
 面といえば、中国の伝統芸に「変面(へんめん)」というのがある。同名の中国映画『変面』で知ったが、そのステージパフォーマンスが新潟市で行われた「春節祭」で披露されたようだ。動画サイトでも見ることができる。一瞬にして隈取をした顔が何度も変わる、その仕掛けを知りたいと思う。石見神楽でも<面が変わる>演出があって、こちらも興味深い。
 燻製は酒の肴として常備しておきたい保存食品だが、冷蔵庫も冷凍庫もあり、真空包装も家庭でできる現在では保存性よりも、その風味が魅力だ。燻(いぶ)された色もいい。先日、手作りしたチキンハムを、古い鍋を使って燻してみた。出来は悪くかったようだ。
 側溝の蓋は昨秋にもつくったが、なお2つ3つ欲しい。昨今はホームセンターで「ドライコンクリート」や「ドライモルタル」が売られている。砂利も砂も混入済みで水を加えて練ればいいだけ。型をつくって流し込み、数日おいて型をはずす。ドロドロのものが固まって形になることには、ある種の達成感がある。スイーツづくりでも同様の面白さがある。
 スイーツといえば、土浦の今井さんから「焼き芋」が送られてきた。男から男へ焼き芋を送るというのも妙な感じだが、届いた焼き芋は滲み出した蜜で皮が濡れて光っていた。口に入れて甘さと旨さに仰天した。昔、食べたものとは別のものだ。感動の余波で、自宅にあった3種類のサツマイモで「焼き芋スイーツ」をつくった。芋を蒸(ふ)かしてつぶし、三温糖と生クリーム入れて捏(こ)ね、成型した表に卵白と蜂蜜を混ぜたものを塗ってオーブンで焼く。出来たものを、隣のカラオケスナック「レガート」のアヤコママに試食してもらった。「おいし~い!」との評価だった。シナモンを振りかけてもいいだろう。
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 2月15日、カールが旅立った。旅立ちの直前、カールは「今日は休みだよ」という飼い主のユウコさんにかまわず、リードを引いて夭夭亭の前まで来たという。通いなれた道だ。「黒曜石のような瞳」「ちょっとおしゃまなパリジェンヌ」と、かつて私がエッセイで紹介したこともあったカール。ユウコさんの隣にちょこんと座り、「かわいい!」の声とともに女性客に抱き上げられることもしばしばだった。
「カール行くよ」と、少し酔ったユウコさんが声をかけるとスッと体を起こし、カウンターの高い椅子から下ろしてもらうと尻尾を振ってドアの前で待つ。深夜の道をユラユラ歩くユウコさんを小さなカールがしっかりした足取りで暗い道を遠くなる。そんな光景も、もう見ることはない。おしゃれに着ていた衣服やリード紐は、荼毘(だび)の煙といっしょに天に昇ったか。それとも思い出として残されたか。小さな骨になったカール。ユウコさんの寂しさはしばらく続く。
 そんなユウコさんを誘ってショートトリップでもしようかということになった。友人でユコさんと登山仲間でもあるジョージさんも乗り気だ。もちろん、酒を飲みながらの話だったが、ユウコさんは早速パスポートの申請をしてきた。春とはいわないが、今年の計画のひとつに上げておこう。
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「冬の201(ふれあい)音楽祭」に参加した女声コーラスグループ「クリスタル・ボイセス」の打ち上げ。受験生のように歌詞を書いた紙を家中に貼って覚えたという、英語の歌も聞かせてもらった。
「テクニックを磨かなければ本当の楽しさは味わえない」。グループの指導をしている村上出身のスタジオ・ミュージシャン大滝秀則さんは言う。その彼が、このほど「ANNYA BAND」を率いてニューアルバム『THE BEST』をリリースした。
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 全作品、大滝秀則さんの作詞作曲。ヴォーカル・キーボードを担当して、総合プロデュースをつとめた。演奏メンバーは高中正義バンドのギタリスト兼エンジニアの「稲葉ナルヒ」がギターとエンジニア。名プロデューサーの「藤谷一郎」がベース。ドラムスに弟の和製ポーカロ「大滝敏則と、渾身のロックアルバムだ。
 新潟県ではよく知られているテレビCM「♪大観荘~瀬波の湯~♪」は大滝秀則さんの作品である。
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 絹さんから「歌」が届いた。

 如何にして死ねばいいのかわからぬと嘆く母抱きわれもまた泣く

 余りにも重き病に苛まれ母の魂は何処を彷徨(さまよ)う

 十六の子を戦場に送り出し死なせし人の歌集賜る
           <その歌集は「この子らに戦いあるな」詠み人米田ひさ>
 一夜にて歌集読みたる母の眼(まなこ)別人のごとく輝きし朝

 母とわれ声に出し読む一首ごとが滋養となりて身に浸みゆけり

 歌を詠みて生き来し人の生きる術は歌のほかなし歌詠めずとも

 『まひる野』にわたしの歌が載りました。いっしょに読もうね、お母さん

 絹さんは母と同じ『まひる野』の同人となっている。手紙に「高木さんは私の気持ちを汲んでくださるすばらしい鑑賞者なので気をよくして送ります」とあったが、私に短歌の素養はまったくない。絹さんや両親を知っていることで、その歌にいくらか寄り添うことができるのだと思っている。むしろ、絹さんが歌に詠む事象や印象、さらには心の風景が<滋養>となって私の心を潤してくれる。
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 狭山のマスダさんが学生時代の友人とともに来店した。小関のアキちゃん(上左)と大塚さん(下左)だ。二人とも初対面とは思えないフレンドリーな人柄。アキちゃんは笑顔を大塚さんはギターの音を振りまいてくれた。(上右)は夭夭亭の親善おもてなし大使ミカさん。(下右)がマスダさんだ。初来店から5年にもなる。
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 この夜はしばらく途絶えていた週末常連組が久々に集まった。ヒデさん、マヤ姐(ねえ)、ムラタ兄、イシグリ大工、そしてミカさん。彼らもマスダさんたちと同じテーブルを囲んだ。
 人更ニ少(ワカ)キコト無シ時須(スベカ)ラク惜シムベシ、
 時常ニ春ナラズ酒ヲ空シクスルコト莫(ナカ)レ
                   (小野篁『和漢朗詠集』から「春光細賦」の一節)
 「少年期は二度と来ないから、人は寸陰を惜しんでつとめなければならない。年に春は二度と巡ってこないから酒盃をあげて思い切り楽しみを尽くそうではないか。いざ、一献、といった勧盃歌である」
                   (『ことばの季節』山本健吉/文藝春秋)
 巡ってこないのは年に二度の春だけではない。人生も二度はない。天に昇ったアメリカ人マークもかつてはこのメンバーにいた。
よく知られている漢詩「勧酒」(于武陵)は井伏鱒二の訳でさらに著名になった。
 勧君金屈巵/満酌不須辞/花発多風雨/人生足別離         
コノサカヅキヲ受ケテクレ/ ドウゾナミナミツガシテオクレ/ハナニアラシノタトヘモアルゾ/サヨナラ」ダケガ人生ダ
 色々あったし色々あるさ。飲んで語れば、それも君だけではない。まあまあ。
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 ムラタ兄も、先月愛犬の旅立ちを見送った。このところ猫談義に花が咲くマヤ姐とミカさん。いつの間にか、二人とも並々ならない愛猫家になっていた。ワインボトルのラベルはマヤ猫のオリジナルラベルだ。
 今日、2千万匹近い犬や猫が人生のパートナーになっているという。一方で、いじめられ、捨てられて引き取り手もなく殺処分された犬猫は15年度だけで全国で9万匹、新潟県で1千匹以上。マヤ姐はそうした殺処分から1匹でも救いたいと、私にも熱心に飼育を働きかける。
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 新潟市で行列ができるパン屋があるという。マヤ姐がその店のパンを買ってきてくれた。フランスパンにさまざまな具をトッピングしたり挟んだりしたもので、具には辛子明太子や野沢菜漬などもある。朝食にはホームメイドのパンを欠かさない長女の家で、前夜食べたきんぴら牛蒡がパンに乗っかって出てきたことがあった。
 ベトナムではフランスパンにレバーペーストや漬物を挟んだパン・ミー・ティットが食べられている。パンの持つ多様な食材との協調性・融和性は今更ながらだが驚かされる。思いつくままに上げれば、骨を抜いたサンマのトマト煮物、ニラの卵とじ、新たまねぎとスモークサーモンのドレッシング和え、ほうれん草とベーコン炒め、刻みネギを多めに入れた納豆・・・・・・。つまり何でもいい。

 近くの割烹「千渡里(ちどり)」で腹子丼を食べた人が、その旨さに涙が出たと述懐した。鮭の卵をこの地では<腹子(はらこ)>と称するが、これの醤油漬を熱々のご飯にたっぷり乗せて食す。当地では子どもの頃からのソウルフードといってよい。その人は生まれたこの地に馴染めず関東地方での生活が長いが、老いた親の元へ様子を伺いに時々は帰ってくる。どこから沸いてくる涙なのか。
 送りきし土佐の干魚(ひうお)を焼くときは目も潤むがに海を恋しむ
                            吉井勇

 今朝も鳴き交わしながら空を渡る白鳥の群れを見た。北帰行(ほっきこう)だ。生命(いのち)の営み。季節の巡り。彷徨(さまよ)った人の心の落ち着く先・・・・・・・。水が温んできた。
             
 

by yoyotei | 2017-03-06 19:54  

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