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見上げてごらん夜の星を

 
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  5月5日(子どもの日)の朝日新聞一面コラム「折々のことば」は「子どもは親の目が届かないところで育つ」という臨床心理家河合隼速雄のことばを載せた。「親の目が届かないところ」では危険で逸脱的言動もありがちだが、それも成長の過程と捉えるのが臨床心理家の見方なのだろう。
 巣立ち直後で飛翔力の弱い小鳥が親からはぐれていた。後頭部にまだ産毛が残る小鳥は、親鳥の鳴き声に懸命に応えていたが、やがてそれも聞こえなくなった。猫の襲撃が危惧されたが、親鳥がいたと思(おぼ)しい隣家の庭に移動させた。この時期は親の目と庇護がなければ生きてはいけない。親子の再会を願うばかりだ。
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 先月は福島の有名な桜を2度も観る機会があった。その後、店の書棚に『櫻史(おうし)』(山田孝雄(やまだ・よしお)著/講談社1990)という本を見つけた。故・本間桂先生が残されたものだ。著者による<序>の1節に「抑(そもそも)この櫻史は櫻の会の委嘱により、その会の雑誌「櫻」の為に起草したるものにして、(中略)大正八年より昭和六年にわたりて僅かに之を終へたるものなり」とあり、「昭和十六年四月 御衣黄(ぎょいこう)の花の盛りの時(改行)神官皇学館大学の居室にてしるす」と結んである。寄稿から10年を経て、補訂をし体裁を整えた上ての上梓であり、「日本人は春爛漫の櫻に何を想い、どのように付き合ってきたか。上古から明治期に至る日本文芸誌を渉猟し、櫻にまつわる事件・人物・詩歌を集大成した馥郁たる優作」と、講談社学術文庫版で紹介するように、さっと目を通しただけでも書名にふさわしい内容だと思った。
 初めて目にした「御衣黄(ぎょいこう)の花」ということば。櫻の別称・異称、または美称・尊称かと想像してみたが、あるいは場所かもしれない。
 この「櫻史」に4月に観てきた「瀧(滝)櫻」の項目があった。「陸奥の片田舎に在りながら名をば雲井に轟かしたる花こそあれ。そは何ぞといふに、三春の瀧櫻これなり。磐城国田村郡三春町の附近に瀧村といふあり瀧櫻はこの地にありて、古(いにしえ)より名高く、今に存せり。その樹は紅の枝垂櫻にして樹齢数百歳に及べりといふ」。
 客寄せの宣伝文句といった筆致だが、実際に観てきた私にはけっして大袈裟ではない。
 さらに著者は、天宝7年に河田迪齋という人物が著した「瀧櫻記」から「瀧の有べき所ならねど瀧村呼べるもの佐久良のあたりを見たててたき櫻といひそめしが、やがてむらの名にもをふせたる成るべし」を掲げて、以下のように述べる。「げにも糸櫻の瀧の漲(みなぎ)り落つるさまなるにより、瀧櫻といひ、瀧櫻の村といふによりて瀧村といひそめけむ」
 ちなみに瀧桜の現在の住所は「福島県田村郡三春町滝字桜久保」である。
 桜の季節は終わったが、「櫻史」なる書物を見出したうれしさに来年の桜の季節まで待ちきれなかった。浄土真宗だった私の生家では、「今のうちにやっときんさいよ(今のうちにやっておきなさい)」と促すとき、ときおり母は「明日ありと思う桜の仇桜夜半に嵐の吹かぬものかは」と、親鸞作と伝わる和歌を添えたものだった。「夜半の嵐」は、いつわが身にも吹き来ないとは限らない。そして、絹さんから届いた今月の『短歌通信』も<桜>が詠まれていた。

 「国立・大学通り」

 新しき車に母を車椅子ごと乗せて風切る桜並木を
 息詰まるほどの桜を見上ぐるはここが最高大学通り
 サークルは新入生の争奪戦 敷物広げ早くも宴会
 母の友われの友らも集まりて広き通りを歩いていかん
 重箱に赤飯おにぎり、煮物、煮玉子「外で食べるとおいしいね」と母
 病にて心塞ぎし母なれどほんのひととき気も晴るるらし
 次の春再びここで会うまでは桜よ母を見守り給え
 
「「滝桜」の根元に跪いて手を合わせ、頭(こうべ)を垂れていた老女の姿が眼前に浮かぶ。そのとき、幾星霜をも経た桜に、私は紛(まご)うことなき<神霊>を感じた。「桜よ母を見守り給え」 
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 車で数分の岩船港湾内で15から20センチのアジが釣れているというので1週間ほど通った。狙い目は早朝早朝4時頃から5時半、夕方は6時から7時が狙い目だ。釣れる日もあれば釣れない日もある。釣り場の岸壁には車を横付けにできる。車には県外ナンバーもある。魚の食いが止まると会話が始まる。
「鹿児島まで行って来ました。5年前に退職しましてね。この5年ほどで百名山を登りました。百灯台もね」
 日本には大小3200もの灯台があるという。聞けば、私と同い年。福島ナンバーの顎ヒゲが白い。
「能登半島まで行くんだ。百勝やめてよ。釣れなくたっていいんだ」
と、こちらは仙台から。「釣れなくっていいんだ」と言いながら、新しいアジ釣りの仕掛けを買いに行った。
 好天に恵まれた日曜日の朝。女の子3人が釣り糸を垂れている脇で、竿をしゃくりながら母親がぼやく。
「釣れないねえ。夕べ家を出て来たんですよ。ガソリン代くらいは釣りたいね」
 父親はチェアーに腰を沈めたままタバコをくゆらせている。大柄で、口ヒゲも似合っている。大きい車輪のアメリカ製のピックアップトラックのナンバーは土浦。
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 釣果にはイワシも混じる。これはオイルサーディンにした。新玉葱のスライスとバゲットにのせて食べるとうまい。
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 店がツタの緑に覆われて第4回目のイベント「えちご村上バル街」が行われた。
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 イベント最初のお客は親子連れだった。ブンさん(左}とジュンさん(右)の始めての来店は23,4年前。二人の間に生まれたヒトシさん(中)は22歳になった。長く店を続けていることで得られる<よろこび>のひとつだ。
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 初来店のノリコさん(左)とマユミさん(右)と来店2回目のナツミさん(中)だ。ナツミさんはこの2日後、友人を連れてまた来てくれた。リピートの短時間記録といっていいだろう。
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 <バルイベント>の最年少来店者はキイトちゃん4歳。「石亀」のエミママ(エミババ?)の同伴だ。 
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 ヨシヒロさん、ユキオさん、マツモトさん。いとこ同士のユキオさんとマツモトさんが、おじのヨシヒロさんを<バル>に連れ出した。このところ体調が思わしくないシヒロさんも、この夜はウイスキーがすすみご機嫌だった。
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 下りのJR羽越線で帰宅しなければならないが、駅前の「楽屋」から薦められての初来店。勇士と書いてタケシと読ませるという。誠実で几帳面な性格が、風貌とカメラを見つめる表情に表れている。
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 マリア&ボビーということにしておく。もちろん仮名だが本物の夫婦である。マリアの愉快なキャラを穏やかに受け止めるボビー。100組の夫婦があれば100通りの夫婦の姿がある。<夫婦百態><夫婦百様>なのだ。
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揃いのポーズがバッチリ決まるのは同じ職場で働く人たちのチームワークのよさだろう。左からワキちゃん、ヨシ君、トモミさん、ナミさん、そしてヤスコさん。
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 長男夫婦(右2人)と次男(右)に挟まれて母は幸せだ。<バルイベント>では夫婦や家族の来店が多い。<バルイベント>、いいイベントだ。
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 バル初日は瀬波温泉のホテでフロント担当のサトウさんに、2日目は<おもてなし親善大使>のミカさんに手伝ってもらった。特に2日目は開店と同時に客が押し寄せ、パニックになりそうだったが、40分後に振り出した大雨で客足がパタッと途絶えた。それでも遅くになって常連たちが顔をそろえた。サチコさんからは羽田空港で検査官として働く娘の元気な近況も聞いた。知人の<子守り仕事・最初の1人目>だったというヨーコさん。明るくてとても元気な人だった。最後はスタジオミュージシャンのオオタキさんの<オン・ステージ>で盛り上がった。
 建築設計をしているオオタキさんと飲み続け、彼を送り出したのは午前2時を回った時刻だった。店内はミカさんがすっかり片付けて、洗い物も済ませてあった。おっと、忘れてはいけない。シブヤさんは翌日、トイレの水漏れを直しにきてくれた。手際のいいプロの仕事だった。「水周りはまかしてくれ!」。頼もしい人が常連になってくれた。
 今回の<バルイベント>。客数は前回に届かなかったが、いちばん楽しんだのは私だったかもし知れない。  
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 ナツミ、トッツ、ユカさんの3人は小中の同級生。ナツミさんは1昨日の夜に続いてのりピート。午前0時になって深夜の道を帰路についた女子2人の会話が、見送る私の耳に届いた。
「まだ飲む?」
「もう少し飲みたいね」
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 釣り場にはカラスやカモメも来る。カラスも親になる季節だ。ウグイなど、釣り人が持ち帰らない魚をカモメと奪い合うこともある。

 向島電機が倒産した。「乙女寮」で暮らしていた<乙女たち>も転職などで離れ離れになる。体の弱い優子は秋田の田舎へ帰ることになった。
「私を忘れないでね」「忘れるわけないでっしょっ!」
 同室の乙女6人が抱き合って泣く。テレビを見ていた私も泣く。NHKテレビ小説「ひよっこ」である。私と同世代の青春群像。当時の乙女たちの生態はかくありしか。毎回ちょっと笑わせて、ちょっと泣かせる。時代を背景に素直に共感を引き出す優れた作品だ。土浦(茨城県)の今井さんも熱烈なファンのようだ。
「そうですね今井さん」
「んだ、んだ、んだ!」
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 カツユキ&マユミ夫妻とも「ひよっこ」談義で盛り上がった。ドラマを見ながら、しばしば涙ぐんでいる様子のカツユキさんをマユミさんはそっと見ている。私よりも10年ほど若い世代だが、ドラマから受け取る感動は同じようだ。来年3月で定年退職を迎えるカツユキさん。新津生まれだが、ずっと村上で暮らしたいと思っているマユミさん。これから展開される<乙女たち>の人生に、大きな波乱がないことをいっしょに祈りましょう。もちろん2人のこれからの人生にも・・・・・・。
 
 見上げてごらん夜の星を
 小さな星の小さな光が
 ささやかな幸せを歌ってる
           (作詞/永六輔)
 今井さんのように筆まめででない私は、喫茶店で働きながら劇団に通い、女優への夢を育む時子のハガキを真似てみた。
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by yoyotei | 2017-05-31 15:03  

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